趣旨説明(第2期)

現代企業は,市場環境の急激な変化に対応して成長していくために,現在注目をあびているサプライチェーンマネジメントやサービス・イノベーションを始め,更にそれらに続く新しいビジネスモデルを創造していくことが求められている.このためには既存企業の分析のような従来手法だけでは十分でないため,仮想の市場環境を盛り込んだシミュレーション手法が必要である.このシミュレーション手法は,コンピュータモデルだけでは実現が難しく,人間が参加するゲーミング手法を用いて,複数のプレーヤが一定のルールのもとで敵対,競争,協調しながら課題を追求する仮想空間を提供することが求められる.失敗が許される環境の中で仮想の企業経営を行い,複数の人間による意思決定を繰り返すプロセスを通して未来世界での体験を積んでいき,これをもとに現実世界での合意を形成し新しいビジネスモデルを検証するという手法が期待される.

そこで本研究では,近年急速に発展しているクラウド型のコンピュータ環境の上に,ビジネスシミュレーションのためのプラットフォームのシステムを開発し,そこでビジネスモデル創造を実践・評価することを目的として進めてきたが,3年間で実証実験を行い,当初の計画を十分達成したので,今後はその成果を基として,さらに研究内容の拡大と深化をはかっていく.この第2ステップでは,これまでに開発してきた製造業・流通業・サービス業などの業界モデルを整備し,これを用いて企業経営の模擬実験を行い,新しいビジネスモデルを創造をめざす.また,リソースベーストビュー理論やダイナミック・ケイパビリティ理論にもとづく各種戦略の立案を支援する手法についての研究を行う.

これまでのビジネスシミュレーションは,主として在庫管理,生産計画などのオペレーション分野における定量的シミュレーションが主体であったが,本研究では,事業システムやビジネスモデルやイノベーションなどの経営戦略を対象とするものである点が特徴である.このため従来のような数値データの操作により,構造的な問題の最適解を探索するアプローチとは異なり,企業経営の意思決定に用いられる言語的データを操作することで,参加者が協力してシミュレーション(ゲーミング)を進めながら,非構造的な問題である戦略策定を,創発的に促進するアプローチにより,合意を形成しながら,実現可能性の高い経営戦略を産み出す効果が期待できる.